「おいしい食品は美しい構造をもつ」,食品組織学分野の研究者が思っているこ とである。このことは構造がおいしさに深く関連していることを示している。食品のおいしさには、物理的特性や成分、組織構 造などが関与している。表面構造や内部構 造が異なれば、テクスチャーは異なり、それには成分も関与している。また、成分の違いは、組織化学的検出やX線分析などで構造での存在をとらえることができる。 従って、構造を解析することは食品のおいしさを視覚的にとらえ、効果的に理解することが出来る。 難しかった顕微鏡観察の技術はかなり簡便化されてきた。特に卓上型走査電子顕微鏡(SEM)の開発は、誰でも短時に容易に顕微鏡像をとらえることを可能にした。しかし、そのことが顕微鏡観察技術の 向上を妨げ、何を見ているのかがよくわからない状況をうみだし、顕微鏡像の誤った 解釈も散見される。一方で食品の構造観察の機器として、X線CTや共焦点レーザー顕微鏡、ラマン顕微鏡等を使用した食品のミクロな構造が発表され、顕微鏡技術は急激に進化している。 こうしたことを踏えて本書では、従来の食材の他に新たな食材も加え、構造観察の情報をおいしさとの関連より取り扱うことにした。本書が大学における家政学や農学 部の研究者・学生、食品企業における研究開発の技術者にとって、構造からのおいし さへのアプローチの道標となることを 期待したい。(「発刊にあたって」より一部 抜粋)
---目次---
Part1 食品の組織構造観察の基礎知識と官能評価
光学顕微鏡用の標本作製
走査電子顕微鏡による食品観察法
加工食品の組織構造と官能評価
調理食品の組織構造と官能評価
Part2 米・小麦食品の組織構造
飯 と 米
冷凍米飯
パン
パン、パイ(生地中の油脂の存在状態)
パスタのおいしさ
パスタ製造と構造の関係
パスタの構造観察
素麺(手延素麺と機械素麺)
キヌア、アマランサス、もち麦
Part3 芋・野菜・果実ベースの食品の組織構造
じゃがいも
フライドポテト
ダイコン、レタス
冷凍タマネギ
梅(カリカリ梅)
やまのいも(ながいもとやまといも)
てんぷらの衣
Part4 豆類食品の組織構造
大豆
そらまめ(おたふく豆)
ひよこ豆
冷凍豆腐
加熱大豆
Part5 海藻類ベース食品の組織構造
昆布(昆布だし)
アカモク
Part6 魚介類ベース食品の組織構造
冷凍による魚の品質の維持
魚肉の真空調理
魚肉の塩麹漬け
Part7 食肉・食肉調理品の組織構造
和牛(霜降り肉)
赤身牛肉と牛タン
ブロイラーと廃鶏
肉の水煮(水の硬度の違い)
鶏唐揚げ(鶏むね肉のタンブリング処理)
Part8 卵と卵料理の組織構造
保存した卵
厚焼卵、目玉焼き、ゆで卵
Part9 牛乳・乳製品の組織構造
プロセスチーズ 見た目のおいしさ
(加熱溶融性・糸曳性)
ナチュラルチーズ
ヨーグルト
Part10 ゲル状食品の組織構造
グミキャンディ
多糖類(ジュランガムなどのゲル)
プリン
Part11 菓子類の組織構造
チョコレート
ケーキ(小麦粉と米粉のちがい)
ちんすこう
米菓子
Part12 油脂を使った食品の組織構造
マヨネーズ
エマルション油滴表面
Part13 新食品の組織構造
ソフト食品(介護食品)
やわらか焼そば
プラントベースのチーズ様食品
エスプーマ
卵殻粉による食品の改良効果
Part14 食品組織を可視化する技術・作る技術
共焦点レーザー顕微鏡を用いた事例
ラマン顕微鏡を用いた事例
X線CTを用いた事例
3Dフードプリンターを用いた事例
Part15 食品のおいしさを見る方法
味覚センサ
におい識別装置
官能評価TDS法
粘弾性・物理特性
アミノ酸分析